DIARY

3月11日

行ってきました。行ってきたですよ、南島。ああ、帰ってきたくなかったなぁ。
家から走ること2日半。ようやく着いたラムズデンのモーターキャンプにベーステントを建てて、釣りましたわさ。いやぁ、良かった。
フライなどほとんど振ったことがないという女房にも竿を持たせ、それでも50オーバーのブラウンがもっこりドライに出たりして。めちゃくちゃいい所でした。どこの釣り場もラムズデンから30分から1時間くらいで行けるし。モーターキャンプはすごく清潔に保たれていて綺麗だったし。
旅行中ほとんどテント泊まりだったおかげで、2週間の宿泊費が二人分で195ドル、1万円ちょっと。安いよなぁ。
それにしても恐るべし、マタウラ。ニュージーランドの鱒とは思えないくらいにシビアにフライを選ぶ。しかも人に驚いて逃げたりしない。まるでヘンリーズフォークで釣りをしているみたい。どうせニュージーの鱒と舐めてかかっていたので、けちょんけちょんにやられてしまった。その横で、びしばし釣りまくる佐藤淑広君を見て、改めて、この人は釣りが上手いといたく感心させられてしまった。
僕が行く直前に来ていた佐藤成史さんは、なんと今月末、再度ここを訪れるらしい。
でも、その気持ちは良く分かる。僕もできることなら、また行きたい。
しかし、片道2日半、往復全走行距離3700キロのドライブじゃ、日本から行くよりも遠いマタウラなのだ。というわけで、来年また来るぞと、誓いの言葉を胸に刻んだ次第。
 

3月12日

午前中は、庭の芝刈りで終わる。
午後は、カヤックのバウを潰す。ヒートガンでカヤックを炙って熱くし、その上に板を載せ、さらにその上からジャッキで持ち上げた車を重しに乗せる。
が思ったよりは潰れないものだった。それで、炙っては潰し、炙っては潰しを繰り返す。
もう随分と昔、二十五年も前のこと、高校生の頃に学生鞄をペッタンコに潰していたのを思いだす。
早速明日、トンガリロのジョギングポイントで試してみよう。

マタウラのことを思いだし、いろいろと考える。
ゴアの街より下流は、工場の廃液のせいか、ドライフライの浮きがやたらと悪い。これは、水棲昆虫から見れば、羽化するときに表面張力を使いづらいということを意味する。だから、スティルボーン、羽化しそこないが沢山でる。
そもそも沢山出るということで言うなら、マタウラ川はかなり大量のカゲロウがハッチするようだ。
あるちゃら瀬の上を、何十羽というターン、アジサシの仲間が飛び回っていた。ハッチしたカゲロウを食べているのだ。ツバメなら分かる。が、ツバメよりはるかに大きいアジサシがカゲロウを食べているのは初めて見た。あの身体を支えていく食料となるだけ、それだけ沢山のカゲロウが出るということだ。
そうなると、鱒としても、ある特定の種のカゲロウだけ、あるいは特定のハッチステージのカゲロウだけを食べていても生きていける。

今回の僕の敗因は、とにかくフライが皆、オーバードレッシングのごてごてで、シルエットが大きくなりすぎたことにあるようだ。
佐藤淑広君のフライボックスを見せてもらって、実感した。

やはり、釣りは奥が深い。新しい場所に行けば、新しい問題が待っている。
来年は何とか自分なりの答えをもって臨みたいものだ。

没原海に眠っている原稿で取り上げたタラタ・フィッシュアウェイの内田さんからメールを貰った。
本当に心の真っ直ぐな青年で、話をしていると、釣りのことやタラタ・ロッジのことなんかより、この人のことを書いたほうがよっぽど面白いのにと思ってしまう。(妊娠−結婚−ニュージーランド滞在−高校入試)という順番で進んできているので、本人言うところの逆さまの人生だそうだ。
また、こっちで会えたら嬉しいと思う。酒が飲めないのは残念だけれど。

 

3月13日

前線の通過でひどく天気が悪く、おまけに冷え込んだのでカヤック試乗会は中止。
何でもクイーンズタウンでは標高800メートルまで雪が降ったらしい。
おーい、淑広くーん、大丈夫かぁ?

二週間ちょっとネットから離れていただけなのに、その間にそれまでいつも見ていたホームページがいくつか消えていた。一つは「停止中」、一つは「File not found」、なんと一つは「You don't have permission to access on this server. Forbidden」となっていた。栄枯盛衰、なんとも流れの早いものなり。それとも俺の好きだったレストランが片っ端から潰れたように、俺の好みって消え行く運命にあるのか?
明日は、真面目に「釣り師の言い訳」に取りかかり、ついでにカヤック試乗会をするつもり。
明後日は、釣りに行こうかしら?

ベッドに入る前の一仕事に、フロントページを変えた。
つまり、我々釣り人は、はるか昔、400年も前から下り坂を転がり続けているということなのだろうか。

 

3月15日

「言い訳」を始めるはずが、ロケの手配で意外と時間を取られ、おまけに潰したカヤックにも乗ってみたかったので、ずるずると川に出かけてしまった。もっとも、家から五分の川で一時間ほどやっただけなので、仕事をする時間が無くなったという言い訳にすらならないのだけれど。
バウを潰したおかげで刺さりやすくなった。が、まだ、立つとか、深く入るとかいう段階ではない。身体のひねり、体重をかけるタイミング、カヤックのねじり方など当然クリアしなければならないことが沢山あるのだろうから、ひたすら練習するしかあるまい。

川にはぼちぼち釣り人の姿が目立つようになってきた。産卵遡上の鱒が、そろそろ上り始める季節なのだ。大きなニンフに大きな目印を付けて、よいこらせとキャストする季節になりつつあるということだ。
完全にそうなってしまう前に、ドライの釣りを楽しみに、牧場か、運河に出かけるとしよう。
シルエットの細いフライをいくつか巻いて、、、。

 

3月16日

「言い訳」、書き始めて、五行で止まる。にっちもさっちも行かなくなる。うげぇ。

ラムズデンのキャンプ場で日本人の釣り青年と会った。お互い名前も名乗らなかったので、どこの誰なのか知らないのだけれど、すごく自信たっぷりの人であった。僕が、クイーンズタウンの友達とマタウラで釣りをするつもりだから一緒にどうですかと誘ったら、「リタイアをして、ダニーデンに住んでいる日本人で、釣りばかりしている人と会う約束があるので」と断られた。「マタウラですか。ああ、見ました。あんなでかい川、ニンフを底、転がすか、ウェットでも引き回さなきゃ釣れないでしょう」とも言っていた。
知らずしらずのうちに、自分自身で自分の進める限界を狭めてしまうことがあるのだな、と思う。
虚心坦懐とまでは言わないけれど、誰からでも学ぶことは沢山あるのだ。それが釣りであれ、何であれ。
我が身への戒めとして。

そのマタウラ川で釣りをしていた時のこと。遠くに東洋人らしき集団がいた。
近づいてきた彼らを見てびっくり。そのうち二人はなんと知り合いではないか。
なんでまた、こんなところで顔を会わせるのかと、お互いに驚いた。
改めて、世界は狭いものなり。

 

3月19日

やっとどうにか「釣り師の言い訳 22回目」を書き上げる。まだ陽も高いので、釣りに行こうか、それともジョギングカヤックに行こうかと迷うが、ちょっと休憩。
明日は、牧場の川に釣りに行こうと思う。来月早々テレビの下働き仕事で二週間程留守にしなければならないので、そのためにもう一本今月中に書き上げておかないといけない。その英気を養うためにも、明日は釣り。そう、明日は釣りだ。
だから今日は、明日のための毛鉤をいくつか巻くことにしよう。
あの川では必要ないと分かっているけれど、練習としてシルエットが小さくなるように巻いてみよう。

なんだか、いろいろと大きく変わりそうな予感。
なにがって?
あれですよ、あれに決まってるじゃないですか。

 

3月20日

牧場の川に行ってきた。雑用、仕事などを済ませてから行ったので、川に着いたのは三時ちょっと過ぎ。女房も一緒に来る。 この間、佐藤成史さんと来た時も魚が少ないと思ったけれど、その時よりさらに減っている。これじゃ、ピンコ相手に幼児虐待もできやしない。
ハッチもなく、ライズもない。時折、産卵で水面を叩いているイトトンボに、尺ものが飛びついているばかり。
ようやく見つけたまぁまぁの型のニジを狙うが、フライを取り換える度に見に来るものの、鼻先で突いて帰ってしまう。
おい、こら。お前はマタウラのブラウンか。北島のニジの分際で、お高くとまるんじゃねえ。
そう思いつつ、あれこれやるが、結局駄目。
あれだけ沢山いた、ニジの天国のような流れだったのに、川がお釈迦になったのか。
何とかいい釣り場を見つけないことにはなぁ。

予感は見事に外れたので、相も変わらず、情けない人生。

 

3月23日

急ぎの仕事が二つも舞い込んで突然忙しくなった。仕事があるのはいいことだ。でも、釣りに行けないのは悪いことだ。
明日か、明後日か、トンガリロに下見の釣りにでも行ってみようか。

今日は忙しいと分かっていながら、それでも抉じ開けるようにして時間を作って、ジョギングカヤックをやった。
すげぇ冷たいっす。水がジンジン、手がチンチン、顔がギンギン。カヤック用の手袋がどっかにあったはずだから、次回からはあれを使おう。それとも、腰抜けになって、湖の温かい水で遊ぶことにしようかな。

「釣り師の言い訳」のネタ出しに頭を捻る。もう、23回目。いや、その前のやつを入れれば24回目。青息吐息。ひーひーぜぇぜぇ。
明後日の26日から30日は取材で南島西海岸の僻地。帰ってきてすぐ4月1日から13日までは山歩きのお手伝いで山の中。というわけで、このページの更新もほとんどできない。というか、ページの更新よりも何よりも、「言い訳」を書いてる時間があるのか?大丈夫か、おい。

 

3月24日

今日、タラタの内田さんからメールを貰い、没言海で眠っていたはずの原稿が、「フライフィッシャー5月号」に載っていますよとのことだった。おお、没ではなかったのか。嬉しや、嬉しや。
しかし、自分の目で確かめたわけではないのだけれど、内田さんによると、川の名前が「ランギティキ」でなく、「ランギタイキ」になっているとのこと。
それって、全然別の川じゃん。書いた俺に確かめもせずに、川の名前を変えちゃ駄目だってばさ。
ひょっとして、外国かぶれの斉藤が現地風の発音で書いたんだろうくらいに思って変えたのかも知れないけどさ。でも、ランギタイキ川は、北島中央部から北に向かって流れ、太平洋に注ぐ川。私が原稿に書いたランギティキ川は、同じく北島中央部から始まるけれど、南に流れてタスマン海に注ぐ川。日本でいえば、利根川と信濃川くらいの違いがあるぞ。
いずれにせよ、原稿を使っていただいたのは、とても有り難いことです。
というわけで、没言海からは昇天ということに。

The visual system of fishに多少の追加。あと100ページちょっとで読み終わる。

夕方、1時間ほどトンガリロ川で竿を振った。水温13°弱。重たいニンフにイトミミズを付け、でっかい目印のトンガリロスタイルで川底を転がす。残念ながら、うんともすんとも言わなかった。遡上鱒は登り始めてはいるのかも知れないが、まだまだ数が少ないのだろう。仕事から帰ってきたら、ちょうど良いかも。

来週から私が下働きをするテレビの出演女優さんが天海祐希から松田美由紀になったとのこと。ロケ開始1週間前で、よくまぁスケジュールが空いていたものと感心。

 

3月30日

南島の仕事を終えて、帰宅。
でも、写真の仕事だったので、ちゃんと撮れているかどうか全く不安。自信なし。
ところで私は、いつからカメラマンになったのでしょう。

「フライフィッシャー5月号」と「フライの雑誌」が届く。
フライフィッシャーの小野編集長からメールが来ていて、ランギタイキとランギティキの件、次号で訂正を載せるとのこと。

「釣り師の言い訳」、今日、明日中になんとか目鼻だけはつけておかなければならないというのに、真暗闇のブラックホール。
大丈夫か、斉藤?