トラウトバム日本語版      

魚との知恵比べ

魚の感覚と行動の科学

川村 軍蔵

成山堂書店 2001年

   
P.50
ダイオードの発光が弱く図形のコントラストが弱いと図形が見えにくくなり、コントラストが同じでも発光時間が短いと図形が見えにくい。コントラストとの関係で図形識別時間をみると、最も強いコントラスト67.1でブルーギルは百万分の3.2秒(約30万分の1秒)まで識別可能であった。これは同じ条件で実験した学生たちの55分の1になった。すなわち、ブルーギルの時間感度は人の55倍ということになり、瞬間的に視覚情報を得る魚の能力は我々の能力を遥かに超える。

P.52
呈示時間が0.005秒の場合、ブルーギルのコントラスト閾値は約0.1で学生たちのコントラスト閾値(5.5)の55倍である。コントラスト閾値が人より低いということは、我々にはボンヤリと不鮮明に見える物でも魚には鮮明に見えることである。

 

斉藤の感想
この実験で使っているのはブルーギルだけれど、ニジマス、ブラウン、ヤマメなどの魚の視覚能力がブルーギルよりも遥かに劣ると考える理由は特に見当たらない。それどころか、ブルーギルは止水で生活しているのに対し、ヤマメなどは流水だから、餌か餌でないかを見分ける能力は少なくともブルーギルと同等かそれ以上であると考えて良いはず。またいずれも水棲昆虫や小魚など、餌としている対象が似たようなものであるから、その辺りから考えても、魚種は違うとはいえ、ニジマス、ブラウン、ヤマメの能力も同様に発達しているはずだ。
最もコントラストが強い状況としては、日中の水面近くにある物、あるいは水面に浮かんでいる物があてはまると考えてよいだろう。その形を識別にするのに必要な時間は約30万分の1秒、本当に一瞬だ。
となると、僕たちが投げたフライを、スッと水面まで泳ぎ上がり、じっと見つめているというのは、人間にあてはめるとかなり長い時間、左見右見、逡巡しているのに等しいことになる。
また、コントラストが低くても見えるということは、夕まずめで暗くなりティペットを結ぶのに苦労するような状況でも魚達にははっきりと美味そうな虫か、どこかおかしな怪しいものかを見極める眼があるということだ。

 

P.57
偏光受容が確認された魚は、ティラピア、ニジマス、ブリで、コイとチダイは知覚できないようだ。

P.58
偏光フィルタを使って背景の偏光をカットすると、物標のコントラストが鮮明になる。魚の目が偏光フィルタと同じ機能をもつならば、魚は水中の物標を鮮明に見ることができ、水中から空中の物標を見るときも同様である。

 

斉藤の感想
本書57ページには、海中から海面上の風景を、偏光フィルタなしとありで撮影した写真が2枚掲載されているが、その違いにはびっくりさせられる。岸辺を歩く釣り人も魚からはかなりはっきりと見えているのだろう。当然、水面に浮かぶカゲロウなどの昆虫の姿も同様なはず。コップや水槽にフライを浮かべて、水中からどのように見えるか試す際には、偏光グラスをかけた方がいいのかも。

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