トラウトバム日本語版        

DIARY

9月4日

タウポの地方新聞に中国人のOsteopath(整骨療法)の広告が出ていたので、物は試しと早速行ってみた。
前回のオークランドの按摩と違って、非常に科学的で、そのあたりからまず感心した。いきなり揉んだりせず、しばらくの間こちらの症状やどうしてそうなったか、過去の同じような経験や交通事故の体験など、関係ありそうなことを根掘り葉掘り聞いたうえで、体をあちらこちらに曲げ、どこが痛むか、どこが張っているかを調べる。その後、ベッドに横になったのだが、その時に僕が履いていた靴をひとしきり見比べ、左右の底の減り具合を確かめていた。
うむ、ひょっとしてこいつは悪くないかも。
さらに普段している運動、職業、仕事中の姿勢、]筋肉のつき具合、関節の柔らかさなども確認。で、言われたのは、僕の右のお尻筋肉はしっかり発達しているのだが、左はそれに比べて弱い。そのため歩く際に右と左で不均衡になり、どうしてもゆがみが出るとのこと。たしかにカヤックで、沈をして起き上がるのは常に右からだし、フライフィッシングのキャストも右だから、主に右半身の筋肉を使っていることになり、それで差が出たのかもしれない。
ふんふんと頷きながら、されるがままになっていると、「これは腰じゃなくて、足の付け根の筋肉ですね」と言ったかと思うと、ぐいと筋肉をひじで押さえられた。
ずばり、それがつぼに入る。くううううううう。効くぅ。
悶える僕の様子に、ふむふむと言いながら、さらにぐいと力が入る。
うわぁ、そこです。いや、ががががが、ちちちちち。
非常に痛いのだが、ただ、前回の痛いだけのマッサージと違い、痛みの中にひょっとしてこれは効くのかも、という香りがどこかに感じられる揉み方で、こちらが「ぎゃ」と叫ぶその寸前で止めてくれる。
これで一月近くも苦しませた腰回りの悩みからついに開放されるか?
いよいよ、釣り、カヤックともフルに解禁か?

その暁には、左でキャストし、ロールも左から起きるようにしようかと、真剣に考えている。

9月10日

タウポまで買い物に行く途中、ふと車のメーターを見る。
おおおお、ついにやった。
走行距離が40万キロを突破しているではないか。
うん、うん、よく頑張ったなぁ。発電機の故障にもめげず、ダダ漏りのオイルにも負けず、がたがたのタイミングチェーンもものともせず、ただ、ひたすら走った甲斐があるというものだ。偉いぞ、三菱。すごいぞ、マグナ。この調子で行けばあるいは50万キロも夢ではないと思うのだが、半分は怖いもの見たさだ。なにせ、いつ、ガタンプシュウとお釈迦になって動かなくなってもおかしくないのだから。
40万キロというと、地球が一周3万6千キロだから、11周ちょい。あるいはオークランドと東京の間を22往復ちょい。地元で言えば、タウポ湖の周りを2500周。身近なところでは、僕が2億3529万4117回ほど五体投地をして進む距離だ。
うむ。なるほど。ぼろぼろになるわけだ。

釣りに行こうと思うと、川に水がなかったり、腰が痛かったり。
で、雨が降り、腰が治ったと思ったら、仕事が入って釣りには行けなかったり。
どうも、世界の歯車がうまく噛みあっていないようだ。

9月12日

おとといの夜、電話があり、翻訳を頼まれた。とにかく急いでいるというので、その日は夜中の2時すぎまで頑張り、翌日も一日かけて分からない単語を調べながら一生懸命働いた。「設計用基準地震動の評価方法」がうんたらかんたらという論文の和文英訳である。聞いたこともない意味も分からない単語が次から次へと出てきて、例えば、「非線形解析により解放基盤相当の位置での露頭波を求め」という一文を書くためだけに、1時間以上も検索をかけ、リンクをたどり、関係すると思われる論文、報告、英文を読み、どうにか言葉を探しだしてくる。
ようやくでき上がり、さて、メールで送ろうかと思ったところへ、電話。
「あれ、キャンセルになっちゃって、、、」
はぁ?

はぁ?

はぁ?

そんなん、ありぃ?あれだけ苦労して、あれだけ頭使って、時間使って、それが全部水の泡ですか?ただ働きですかぁ?
くうううう。

今日の午前中は、キャンセルになった仕事の後片づけ(復讐ノートに氏名記入、わら人形制作など)。昼ごろまでぶらぶらしていたものの、どうにも机に向かう気にならず、2時過ぎに釣りに出かける。夕べ遊びに来たポールの話では、彼の知り合いがこの前の日曜日にタウランガ・タウポ川へ釣りに行き、20尾ほど釣ったとのこと。おおお、ついに群れが入ったか。ということで、駄犬を連れて川へ出かける。駐車場にはもう車が6台ほど停まっていた。前回1尾目が釣れたポイントまで歩いていくと、流れが少し変わっているようだ。上流のポイントに他の釣り人の姿が見えたので、そこでねばることにした。イクラではうんともスンともこなかったが、スメルトに変えたら当たりがぽんぽんと二つ。一つは鱗だけ、二度目はバチャリと跳ねてばれてしまった。その後、夕暮れ間近にトンガリロまで転戦するも、何もなく結局一日坊主で終わる。
ついてないったら、ありゃしない。

9月17日

NewZealand Herald紙に、bootlegつまり海賊版の記事が載っていた。僕も高校のころには、いろいろな海賊版を買いあさったけれど、それはコンサート会場に入り込んで無許可でライブを録音してしまうものだった。当然のことながら、こっそりと機械を持ち込むわけだから、小型のカセットか何かで録音していて、音も非常に悪い。けれどたまには、コンサート会場のミキサーやPAの人間が絡んでいることがはっきりと分かるほど、いい音質のこともある(クイーンのライブがそうだった)。なんてことを思いだしながら、記事を読んでいて、おおと思わず引き込まれた。最近の海賊版は、なんと、ある曲からボーカルだけをサンプリングして抜き出し、それを別の曲の演奏をバックに歌わせて、音楽のキメラクローンを作っているようなのだ。さっそく、新聞に出ていたサイトに行ってみる。
ふむ、ふむ。
ビートルズの「ゲットバック」をバックに、歌うアトミック・キトゥン。
Verveをバックに歌う、マドンナ。
ワイルドシングとカイリー・ミノーのキメラ。
いろいろとダウンロードして聞いてみる。アハハ、こりゃ面白い。
もっとも、MP3だから容量が大きくてダウンロードに時間がかかる。こんな時にはADSLとかケーブルのように早いインターネットがほんと羨ましくなる。

ところで、こういうものの著作権って、どうなるんだろう?ただ単にレコード会社が出しているそのままを無料配布しているのなら、明らかに著作権侵害だけど、そうではなく、それを素材に新しいものを作り出しているのだから。他の画家の絵や写真、あるいは小説をもとにパロディやコラージュを作ったりするのと同じだと思うんだけど、その場合、原作の作家の承諾って必要なんだろうか?

ちなみに、新聞に紹介されていたサイトはあっという間に閉まってしまった。ただ、まだ開いていた”裏”(閉まったほうは”ノーマルサイト”なんだそうな)によれば、表も近々新しい曲と一緒に再開するらしいので、楽しみに待つことにしよう。

9月23日

金曜日の夜に電話があり、突然、バイオテク関係の翻訳の仕事が入った。
「いや、あのですね、私、月曜日から日本に行ってしまうんですよ。まさか日本にまで重たい辞書を数冊も持っていくわけにも行きませんし」
そう、断ったのだけれど、向こうも他に頼む人がいないようで、そこをなんとかと言われ、引き受けさせていただいた。それで、金曜の夜更けから、みしみしと音がするくらい張り切って、日曜の夜にとりあえず下訳までは終えることができた。あとは日本に着いてから、これをもう一度読み直し、間違いはもちろん、日本語としてこなれているか、言い回しは的確かなどなど手直しをして、納品。
いや、人間やればできるもんでございますね。

と言うわけで、本日より10月13日までは日本滞在で、その間に日本食をいろいろ(味噌ラーメンやら塩ラーメンやら豚骨ラーメンやら)食いまくってくるつもり。ああ、早く食いてぇ。