トラウトバム日本語版        

DIARY

11月10日

テレビのロケハンの合間、ほんの30分ほどだけれどマタウラ川で釣りをする機会があった。ライズもあった。よし、これはいけるぞ。メラメラと期待に燃えてフライを結んだのに、ライズはどんどん散漫になっていき、何度かキャストした頃には、ほとんど消えてしまった。おかげで、ボウズ、ゼロ、空振り三振。とほほ。
夏の間、マタウラに移り住んで来る日も来る日も釣りばかりしている真正トラウトバム「よろず屋」さんと、川で偶然お会いする。もっとゆっくりお話をしたかったのだが、仕事中なのでそうも行かず、お茶のお誘いもお断りして失礼してしまう。

撮影用に、お高いワインを数本買い込む。過去にも、これから先にも自分では絶対に買わないだろうというようなワインだ。人のお金だし、しかも自分で飲むわけではないのだが、何となくいい気分。味見くらいはさせて貰えるのではないか、と意地汚く期待する私。

映画「Bend It Like Beckham」を見る。まぁまぁ。

11月14日

トンガリロ川上流部にカヤックをしに行く。タウポのユースに泊まって、降っても晴れても水があってもなくてもカヤックをしている日本人二人に連れていってもらう。天気は久しぶりに晴れ渡り、雲ひとつない青空。おまけに風もなく、ぽかぽかと暖かい。それでその陽気に騙されて、ポーギー(カヤック用の保温手袋)を持たずに出かけたら、これがあなた、川の水の冷たいの冷たくないの、ちょっと漕いだだけで手の感覚がなくなった。さらに、ひっくり返ろうものなら頭がぎしぎし音を立てて縮み上がり、しばらくは痛みに叫び続けるほど。それでも、久しぶりのカヤックを堪能できて、とても幸せ。

来週マタウラで使うフライをこつこつと巻いている。トンガリロ川で使ういい加減なフライでは太刀打ちできないことを数年前に思い知らされているので、その雪辱をなんとか果たしたいと願ってのこと。でもどっちにしても同じ人間が巻いたいい加減なフライなので、きっちりと返り討ちに遭う予感も、、、。

知り合いのガイドと話していたら、遡上鱒のランが今年は遅くまで続いているようで、一昨日15、6尾ほど釣り上げたという。確かに今日トンガリロ川の上流部を漕いでいると、右往左往する鱒が沢山いたものな。なんとか、時間を作って出かけねば。
ちなみにフライはエッグではなく、小さなニンフだそうな。

こんなホームページを持っているせいか、たまに見知らぬ人から問い合わせのメールを貰う。これこれしかじかの時期にニュージーランドに釣りに行く予定なのだが、フライは何がいいでしょう?ドライでしょうか、ニンフでしょうか?サイズは?
僕としては、まぁ半分暇なこともあるけれど、わかる範囲でなるべく詳しく返事を書いて送っている。なのにそれを受け取っても、なしのつぶてということが多い。
おめぇ。街で見知らぬ人に道を教えてもらったら、「ありがとう」くらい言うのが普通じゃねえのか。あんまり人のことを馬鹿にすると、今度から、嘘、教えるぞ。

11月17日

金曜の夜に、根岸さん、黒木さん来宅。いつものように、しこたまワインを飲む。
土曜日は、昼ちょっと前に運河に行き、釣り。時折小雨がぱらつき、ライズは全くなし。着いたときに車から見ていたら、モワリ、ボワリとライズリングが広がっていたので、「おっ」と期待したらそうではなく、鱒が藻の中に頭を突っ込んでニンフを食べるたびに、尾びれが水面を揺らしているのだった。16番のニンフ、アリ、赤虫、イマージャなどを手当たり次第あれこれ使って15尾かけるものの、なんと8尾は一瞬にしてバレてしまい、結局取れたのは7尾だけ。調子がいいんだか、悪いんだか。フックが小さいから、トンガリロでやるようにびしっと合わせるのではなく、口のどこかに鉤がかかってくださいと祈りつつヌルッと合わせたほうがいいのだろうか?
日曜日は、午前中、トンガリロに出かける。先日大釣りをしたというガイドの話になり、黒木さんが電話をしたときには、12尾出て、うち2尾がぼろぼろだったとのこと。人と話すたびに、魚の数が増え、内容が良くなるあたり、釣り人の性が如実に現れていて面白い。
いつものプールを覗き込むと、沢山の魚影。早速ヘビーニンフの後ろに小さなニンフを付け、ひたすらしつこく流して、ようやく3尾。食い気のない鱒を釣るのは、根気仕事だ。

11月19日

マタウラの準備は整った。16番の小さなニンフも、もっと小さな18番のフライも巻いた。久しぶりにぎっしり詰まったフライボックスを眺めながら多分これで大丈夫だろうと思っているところに、クイーンズタウンの佐藤君から電話があり、ダニエルが10ポンドオーバーのブラウンをマラブーのストリーマーで釣ったという話を聞かされたので、あわてて必殺おたまじゃくしを四つも巻いた。赤虫も持った。イトミミズも持った。ないのはエッグくらいだ。あとは天気が安定してくれるのを祈るだけ。
撮影の手配も全部終わった。最後の最後まで返事が来ないので、いらいらさせられた博物館の撮影許可もおりた。レンタルするべきものは皆揃った。やれやれと一安心。
実際の撮影が始まってしまうと、なにか起こってスケジュール変更でもないかぎりコーディネイターの仕事は荷物運びのような雑用ばかりなので、実は気楽だったりする。

ところで、テレビの仕事から帰ってくると、もう11月も末じゃないか。早く海に行かないと、イカ釣りシーズンが終わってしまうのではないかと、ちょっと焦り気味。せっかく日本から沢山のエギを買い込んできたのだから、何としても試したいのだ。いや違う。なんとしてもイカを釣り上げ、新鮮なやつを食べたいのだ。むさぼり食いたいのだ。わしわしと口に放り込みたいのだ。
ネイピアに行き、キャンプでも張って、数日粘ってみようかと現在夢想中。

11月28日

ああ、終わった。長いような短いような1週間の撮影が、無事終わった。事故も大きなミスもなく、コーディネイターとしては、あとは請求書をまとめて送るだけ。年に二回くらいこの手の仕事があると、生活は大分楽になるんだけどなぁ。

ところで、今回の撮影で、思わず「うぉっ」と口に出そうになったことが一度あった。
山小屋でミュージーシャンの撮影中に、彼が「ボトルネック(ギターの演奏に使う、ビール瓶の口の部分だけを切り取ったもの)が欲しい」と言ったものだから、スタッフ一同慌てて探したけれど山小屋にそんなものはなく、仕方なく僕たちが持っていったワインボトルを割って作ることになった。僕はミュージシャンのそばにいなければならなかったので、その辺は撮影スタッフが動いてくれたために、どうやってボトルを割ったのかまでは知らなかった。なんとかご希望のボトルネックを使った演奏も収録でき、全部の撮影が終わったあとで山小屋に持ち込んだワインを持って帰るためにと探したのだが、どうしても1本足りない。そのことをスタッフに尋ねると、「ボトルネックを作るのに使った」とのこと。撮影中に既に空いた瓶もあったけれど、それは後の撮影で使うため割ることができず、それでまだコルクを抜いていないワインを一本開け、中身を空き瓶に移し、それで瓶を割ったのだそうだ。で、撮影は時間が思ったよりもかかり、終了したのはもう11時半。それからワインなど飲んでいる時間もなかったので、終了と同時に空き瓶に移したワインはそのまま捨てたと言うのだ。
僕が思わず、「うぉっ」と言いそうになったのは、瓶を割られるためにコルクを抜かれ、しかも誰にも飲まれることなく捨てられたワインが、StonyridgeのLarose 98年物で、今回撮影用に用意したワインの中で2番目に高かったやつだったから。お値段は125ドル。スタッフはNZワインのことなど値段を含めて全く知らないから仕方がないのだけれど、3本並べて用意しておいたワインのうち、なぜかこの一番高いワインが選ばれてしまった(他のワインは30ドルクラス)。悲劇のワイン、非運のワインである。
それにしても、一口でいいから飲んでみたかった。
ああ、もったいない。