トラウトバム日本語版        

DIARY

11月7日

昨日トンガより帰国。
なんとも、まったく予想とは違って、それがまたすごく面白いところでした。
南太平洋の小島、青い空に蒼い海、白い砂浜にヤシの木。それはその通りであったのだけれど、同時に海外青年協力隊の人たちが出かける発展途上の世界でもあったのでした。その雰囲気は、昔、学生の頃に行ったインドになんとなく似ていなくもない。違う点は、人たちが本当にのんびりとして、穏やかなこと。多分、ココナツ、タロ芋、豚などが豊富にあり、文化的生活は営めなくとも、少なくとも食うものにはまったく困らないからではないかと思う。電気も水道もない6畳くらいの掘っ立て小屋に親子四人で住んでいたりするんだけれど、でも、とっても幸せそうなんだな、これが。
ホエールウォッチング、フライフィッシング、シーカヤック、トランピング、予定していたものはなんとかこなした。でも写真がちゃんと撮れてるか、一抹の不安。結局、今回は全部で49本撮ったものの、その中で使えるものがどれだけあるか。あしたには多分上がってくるので、明後日は一日ポジ見で終わりそう。ドキドキ。

今回の日本とトンガに行っている間に9冊ほど本を読んだ。その中で面白かったのは、フィリップ・ホートンの「南太平洋の人類史」とDenis Bakerの「Floating Line」。「人類史」は、ポリネシアの人たちに関する考古学的考察。トンガで2冊読んだ民話集、伝説集の本の中にも、あちこちでサモア、フィジーのことが出てきて、この三つの島の間で人の行き来がかなりあったことが分かる。カヌーで何日くらいかけて渡っていたんだろうか。「Floating Line」は、ニュージーランドの作家の短編小説集。タイトルが示すように作者は釣りをするようで、ワイタハヌイと思しき場所で釣りをする話もある。けれど、釣りそのものの話より、それ以外の話の方ができが良いような気がした。中でもううむと唸らされたのは、「Neither sane nor merely dedicated」。日本語にすると「正気でもなければ、ただ単に熱心なのでもない」って感じか。お勧めです。

 

11月8日

今日、写真ができ上がってきたので、早速見る。が、が、がーん。あれも駄目、これも駄目。まず全体的に写真が暗い。特に、釣り、カヤックの写真が酷い。青い空も蒼い海も、なんだか色がぐったりと重くなってしまっている。これじゃ、駄目じゃん。しばし、打ちひしがれる私。結局、使えそうなのは、3枚に1枚程度。あああ、あ。写真をもっと勉強しないといけないよなぁ。露出計もちゃんと持っていったのに、使わなかったのがいけなかった。反省することがたくさんある。勉強しなくちゃいけないことがたくさんある。もっと、いい写真を撮りてぇよぉ、くっそお。

久しぶりにキャンプ道具の片づけをしていて、いつからあるのか分からないインスタントコーヒーの瓶を見つけた。湿気を吸って固まっているのはいいとして、生まれて初めて、カビだらけになったインスタントコーヒーなるものを見た。

海釣りの馬鹿みたいにでかい毛鉤ばかり使っていたので、小さなドライやニンフの釣りに行きたくてならない。それに、なんと言っても魚を見て釣るサイトフィッシングがやはり僕は一番好きなのだと再確認した。だからボーンフィッシュなんかやってみたいよなぁ。ラロトンガならいるだろうか。とあくまでもなぜかクリスマス島には行くつもりのあまりない私。どうしてだろう。

 

11月10日

写真を送る雑誌ごとに選り分ける。で、説明書きを付けた。やっぱり、もっといい写真が欲しい。だからといって、ちょっと、また撮りに行くというわけにはいかない。機会は一度しかないのだ。今やらなければ、もう二度とチャンスはやって来ないのだ。そう分かっていながら、ぱしゃぱしゃ撮っていると、もうこれでいいだろうとなぜか思ってしまう。絞りを変え、シャッタースピードを変え、構図を変え、レンズを変え、向きを変えて撮っておかなければならないのに。何度もやって分かっている筈の過ちなのに。それなのに、また同じことをやっている。ちっとも経験から学ばない私。

使ったリールを分解掃除する。今回のために買ったAveleyは、ソルトウォーターと唄っているだけあって、どこにも錆は出ていない。けれど、システム2は、一箇所だけ錆だらけになっていた。ドラッグ調整のつまみを止めておくためのカシメが、ステンレスでもアルミでもなく鋼なので、ここが真っ赤になっていたのだ。まぁもっとも、シーカヤックの船底で海水漬けになること一週間、その後国立公園歩きのために手入れなどしている暇が無く、ほったらかしにされること一週間という過酷な条件だったので、この程度で済んだのは褒めてやってもいいかも。

小泉武夫「発酵食品礼賛」を読み終わる。タイトル通り、世界中の醗酵食品のことを語ったものだが、その中で紹介されていたスウェーデンのシュール・ストレミングなるものの説明を読んでぶっ飛んだ。「大根の糠漬けとくさやと鮒鮨とチーズと道端に落ちている銀杏が相俟ったような強烈なものに、腐ったニンニクが重層したような感じ」 なんだそうだ。この間日本に行った際、生まれて初めてくさやを食べたが、それだけでも結構くるものがあった。しかし、これはそれどころではない。はるかかなた上に突き抜けている。 スウェーデンのきれいなお姉ちゃんもこんなもんを食っているんだろうか。

 

11月12日

ダァ。デイビッド・ツアは残念ながら、ヘビー級タイトルダッシュならず。肉体的不利というものをまざまざと見せられた試合だった。

M・フーコー「知の考古学」を読み始める。が、15ページ読んだ段階で、あまりの難解さに打ちひしがれる。難しいことをさらに難しく言ってどうすんだよぉと一つ遠吠えをして、そっと本を閉じ、本棚の奥深くにしまう。

北川広二「秘酒と渓流魚を求めて」を読む。酷く疲れる。句読点の打ち方がデタラメなのと、クリシェ、陳腐な言い回しの連続、文章の構成でも読者の興味をそそっておいてその先が続かないあまりにも突如とした終わりがあったりして、とにかく読み進めるのが苦痛な本。しかし、とりあえず酒のことが出てくるので斜め読みで最後まで目を通す。結果として得たものはあまりない本だった。日本酒に関してだったら、福田克彦・北井一夫「自然流日本酒読本」が秀逸。奢ることなく、知らないことを知らないと言い、かつ著者の考察が深く進んでいるので楽しめる。

福田和美「日光鱒釣紳士物語」を読み始める。面白そう。

「釣り師の言い訳」、ネタもアイデアも何もなし。うむ、と唸りつつ、お酒を飲んで幸せに酔っぱらってる私。

 

11月13日

が作っているバンド、ニーナ・クラギーナのCDがようやく、お店で売られるようになったらしい。早く売れて早く有名になって欲しかったので、やきもきしていたが、これでひとまず安心だ。あとは、あいつの弱みを握ればいいだけだ。そうすれば、一生働かずに済む。

豆腐を作った。これまでの煮取り法ではなく、生取り法にしたらすごく上品な味に仕上がった。豆腐を作るには、まず大豆をふやかし、ミキサーで粉砕して呉を作るのだが、煮取り法ではこれを煮てから絞る。しかし生取り法は先に絞って、絞り汁だけを煮るのだ。絞るときに熱くないから、思いっきり絞れるのもいい。絞り糟はそのままでは生なので、電子レンジで加熱し、オカラにした。

トンガから帰ってもう1週間も経ってしまった。とにかくすごいところであった。中でもずば抜けていたのが、ローヤル・トンガ航空。オークランドから一緒だったティムが、「トンガ航空は、人がたくさん乗ると、重たすぎるから荷物を積まないらしいぜ」なんて言っていたのを冗談だとばっかり思って笑っていたら、マジなのだ、これが。トンガタプからババウに向かう飛行機で、出発間際になって、荷物はまったく積めませんとのアナウンスが流れた。うわ、それは困る、とにかく釣り道具とカメラだけでもと慌てて荷物をもう一度引っかき回し、手荷物で運び込んだのだ。向こうで知りあった日本人の話では、日本から来たカメラマンが同様の目に会い、一ヶ月もいたのに荷物が届いたのは帰国の一週間前という悲惨な目にあったこともあるらしい。
シーカヤックを終え、ババウからトンガタプに戻る飛行機の予約再確認をしたら、午後の便のはずが午前中に時間が変わっていたなんてのは、まだいい方だった。極め付けは、エウアからの帰り。ここはトンガタプまでわずか10分のフライトである。滞在最終日の月曜日に、朝7時半のフライトでトンガタプに戻り、そのまま9時30分発のNZ航空に乗り継ぎ、オークランドに帰ることになっていた。これまでのことがあったので、金曜日に予約再確認をしたら、なんとフライトスケジュールが変わって、エウア発が9時30分だという。おいおい、それじゃ、間に合わないじゃん。どうすんだよ。そう詰め寄ると、土曜日の夕方のフライトでトンガタプに行くしかないとあっさり言われる。トンガでは日曜日は教会に行く日なので、一切のフライトが飛んでいないのだ。それでやむなく計画を変え、荷物をまとめて、土曜日の午後に飛行場に行ってみると、閑散としている。嫌な予感。事務所の前にいたおっさんが、フライトはキャンセルだよとこともなげに言う。うははは。どうすんねん、わしら。月曜日のNZ航空を逃したら、土曜日までないんだぜぇ!アメリカから来たピースコープス(海外青年協力隊のようなもの)の奴等と話したら、パイロットが飛ぶ気にならなかったらごく気軽にキャンセルになるらしい。そういうことで、いいのか、おい。と怒っていても仕方がないので、色々聞き回ると、月曜日の朝五時半にフェリーが出るという。トンガタプまでは2時間弱。なんとか間に合う。しかしこのボート、時々故障するらしい。おかげで、トンガタプの港が見えてくるまで、冷や冷やしながら波に揺られていたのであった。そしてタクシーを飛ばしてようやく空港に着き、搭乗手続きを済ませた時には、本当にほっと安心したものだ。

でも、色々あったけれど、また行きたいと思ってるんだな、これが。

 

11月15日

「言い訳」のアイデアがなく、ない脳味噌を絞りつづけて、ふと気づくともう夜中の2時半だった。トンガでは、8時半頃にはもう横になっていたのに。エライ、違いだ。
あれからあれこれ調べてみると、ゴールデン・トラバリ、ボーンフィッシュなどは、ニューカレドニアで結構釣れるらしい。ちゃんとガイドもいるようだし。クリスマス島のあるのがキリバツ、そしてニューカレドニアにもいるとしたら、当然ながらそのほぼ間に位置するクック諸島の北群島にもいるだろうと予想される。が、ここに行くには、週に一本の飛行機で、しかも宿が高い。民宿のくせに、一人一泊NZ$60以上もとるのだ。おまけに、そこに目指すボーンフィッシュ、ゴールデン・トラバリがいるとは限らないわけだし。トンガでのことを思い返すと、これまで誰も紹介していない場所でいい思いをしようというのは、やはりギャンブル、しかも確率の低いやつだということがわかる。あとは、そのギャンブルを楽しめるかどうかだ。
しかし、まぁ、とりあえず海用のロッド、リールが揃ったので、今年の夏はオポティキにでも行って、カーワイ釣りを楽しもうと思う。正月過ぎなら、産卵で河口に集まってくるはず。そうすれば陸からでも存分に釣れる。

部屋の掃除をしたら、小さなコイルスプリングが出てきた。一体、なんの部品だろう。リールをいくつか分解掃除したから、その時に落としたんだろうか。そう思って、もう一度リールをばらしてみたけれど、特に足りないようにも見えない。ふむ。

 

11月16日

やっと「言い訳」に取りかかる。お父さんと息子の、幻想的で、それでいてどこかしんみりした話。そう思っていたんだけれど、どうにもアイデアが浮かばず、ぐちぐちともがいているうちに、なぜかまったく関係ない話になっていた。ま、いっか。

久しぶりに、トンガリロ川でジョギングカヤックをした。ホワイトウォーターで遊ぶのは何ヶ月ぶりだろう。波の中での切り返しの練習をする。360もトライしたが、あえなく流されてしまった。とても小さいマイクロウェーブなので、残ることが難しい。もう少し大きいと、理想的なんだけどなぁ。
そのウェーブの下のプールで日本人と思しき青年が竿を振っていた。国道下の、誰でも簡単に入れる、いかにも魚が居そうなところ。それじゃ、釣れないと思う。いくらニュージーランドに魚がいるったって、そこまで甘くはないのだよ。少しは歩きなさい。

この間オークランドの魚屋で、魚の種類はわからないが、魚卵を売っていたので買ってきた。それと一緒に買ったアジも卵が入っていたので、あわせて辛子明太を作った。いよいよ今日が味見。まずはアジから。なかなかいける。ぴりっと辛くて、ご飯がよくすすみます。これはなんとしてもカーワイ釣りに出かけて、卵を取ってこなければと改めて固く決意する私。

夜更けにふらふらとネットをしていて、こんなページを見つけて、思わず涙が出そうになる。う、嬉しいっす。

 

11月17日

「言い訳」続行。

北海道で鮭釣りをした時に、ダバダバと水が漏って困ったウェーダーの修理をする。取りあえず穴を見つけようと中に水を入れてみると、じわじわと染み出すどころか、ピューと勢いよく水鉄砲のように出てきたのにはびっくりした。これじゃ、漏るわけだ。一端干してよく乾かしてから、アクアシールをベタベタと塗りたくる。縫い目のシールテープがどれもこれも剥がれてきているので、結局アクアシールをほとんど一本使い切ってしまう。実はこのウェーダーは貰い物で、くれた人も手に入れてすぐテープが剥がれたと言っていたいわく付きの物。天下のオービスともあろうものが、こんなことでいいんでしょうかね。

知り合いのテレビ・コーディネーターが、明日からトンガに行くそうだ。なんでも、ウルルンなんとかという番組のロケハンらしい。他にも、無人島サバイバルゲームの録画のため日本からテレビが来るという話を現地で聞いた。と言うわけで、今年末か、来年早々、トンガ関係の番組が何本も流れるようだ。それにしても、ローヤル・トンガン航空のことを思いだすと、あんなところでテレビ取材も大変だろうなと思う。

相変わらず仕事はなく、ピーピーのド貧乏生活だが、そのくせ、遊ぶ計画だけは次から次へと持ち上がっている。トランピング、キャンプ、ワイン・テイスティング、釣り、ソルトウォーターフライ、ヘリフィッシング。うーむ、大丈夫なんだろうか、わし、と思っていたが、、、
我、男の子、遊びやせんと生まれけむ
そうか、そういうことか。男の子というのは、そういうものなのか。それならば仕方がない。じたばたせず、潔く諦めて、遊びまくるとしよう。

 

11月18日

「言い訳」、ほぼ書き終わるが、どうにもいけない。助走の後で、踏み切りに失敗し、ジャンプし損なっている。それで、また頭を抱える。

逃げるようにして読書。福田和美「日光鱒釣紳士物語」を読み終わる。なかなか面白かった。ただ、西園寺公望、あるいは公一の名がまったく出てこないのは何故だろう。東京アングリング・エンド・カントリー倶楽部が発足した1925年には、公望はすでに七六歳なので、公一の方が関わっていると思うのだけど。西園寺公一の「釣魚迷」を見ればその辺のことが分かる記述があるのかもしれない。しかし今探してみたら手許にない。ということは実家にあるか、はたまた古本屋に売ってしまったか。
続いて、奥本大三郎「書斎のナチュラリスト」を読了。もっと自然のことが出てくるのかと期待していたが、肩透かしをくらう。著者が「ファーブル昆虫記」の訳者だし、それにタイトルが面白い昆虫の世界に触れた話、あるいはそれにまつわる書物の話を匂わせているのがいけない。ちぇ、すっかり騙されたぜ。

 

11月20日

「言い訳」、女房に読んでもらって意見を聞く。それで修正アイデアが浮かんだので、書き直す。飛距離、高さはそれほどではないが、とりあえず踏み切り、着地ともなんとか失格せずに済んだ感じ。

芦原伸「栗山村物語」、同じく芦原伸「釣りと温泉」を読む。芦原さんは大学の先輩に当たり、ライターをやっている方。今年の二月にも、仕事でこっちに来たついでに家に泊まっていった。で、この2冊を読んだ感想。ニュージーランドの人間臭の少ない自然の中で、大きな鱒を釣るのもいいけれど、日本の川で、人と出会いつつ岩魚やヤマメと遊び、その後は温泉に入って、日本酒をやりながら与太話をするのも捨てがたい魅力があると心底思った。特に、「釣りと温泉」は、真澄の生酒をちびちび嘗めながら読んだので、一層そう感じてしまった。いいよなぁ、こういう釣りができて。

ガイドの仕事に出る女房を送って、オークランドまで日帰り。ついでに、シーマートに寄って、新鮮な魚を仕入れる。カジカの仲間を丸々一尾、タラのように見えるもの(頭もヒレもみな落としてあるのでよく分からない。ひょっとしたらサメの仲間かも)を一尾、鯛の卵4腹、イカ三杯を買った。イカは、半分塩辛にして、残りの半分はスパゲティに入れて夕飯に食べてしまった。鯛の卵は、明太風にするつもりで、とりあえず塩漬けに。

あ、しまった。オークランドに行ったら、丸のままのナツメッグを買ってくるつもりでいたのに、すっかり忘れていた。むむむ。

 

11月21日

朝、タケノコならぬ笹の子を取りに行く。笹の林の中で、地面から出たばかりの細長いやつをぽきぽき折って、それをタケノコ同様、糠、唐辛子で煮てから皮を剥いた。始めての試みである。で、食べてみる。ふむふむ、これ、いいね。ウン、ウン、いけるよ、美味しい。タケノコほどの歯触りはないけど、ウン、まぁ、悪くないなどと言いながら、10本ばかりあったやつを、結局茹でただけで味も付けずに全部食べてしまった。これで春の味覚にまた一つ愉しみが増えた。

昼過ぎにトンガリロ川に釣りにいく。水温12度。釣り場に着いて、いざと準備と思ったら、ウェーディングシューズを忘れていたので、もう一回に家に帰る。そんな阿呆なことをやっていたおかげで、結局釣りを始めたのは、3時過ぎ。本流脇の副流に入る。ハッチもライズもないので適当にディアヘア・カディスを投げていたら、魚を見つける。二度合わせそこなって、三度目で釣る。50弱のニジの雄。そのすぐ上流で、また魚を見つけ、これも二度合わせそこなって、三度目で釣る。50ちょいのニジの雄。何を食っているのだろうと見てみたら、ニンフばかりだった。その後、もうしばらく上で、もう一尾見つけるが、気づかれて終わり。とりあえず、ドライでポコポコと釣れたので幸せ。

小山修三、岡田康博「縄文時代の商人たち」読了。しっかりとした考古学の裏付けに基づいてしゃべっているところと、「おいおい、それじゃまるで、講釈師、見てきたような嘘を言いじゃないか」と突っ込みたくなるほど想像たくましくしている部分が混ざり合っていて面白かった。

夕飯は、ムール貝。ニンニクと玉ねぎの千切りをオリーブオイルで炒め、そこにムール貝をいれる。で、その上から白ワイン、さらに昨日買ってきたカジカの骨と頭からとったフィッシュストックを入れ、貝の口が開いたら、貝だけ皿に取る。残ったものに塩、胡椒、バター、ネギの芽を加え、少し煮詰めてソースとして、貝の上からかけた。う、うまい。幸せである。貝を食べた後で、皿に残ったソースにご飯を入れて残さずいただく。うう、美味、美味。やっぱり、ソースにフィッシュストックを使ったのが勝因だったなと思う。

 

11月23日

相変わらず仕事がないので、本を読む。安本美典「新説!日本人と日本語の起源」。読み始めはおやおやと思ったけれど、すすむにつれ、しっかりした内容で唸らせられた。遺伝子型、統計学、計量言語学など、数字で表されるものを根拠に論を立て、大野晋の日本語とタミール語が関係しているという説などは、まったく空想的な「トンデモ説」とこてんぱんにやっつけられている。なかなか勉強になりました。

夜、友達から電話があった。話している間中、駄犬が膝に顔を乗せ、トイレに行きたいんですけど、と甘えていた。で、電話を切った後で外に連れ出したら、どういう訳か、鎖がすぽりと首から抜けてしまった。その瞬間、駄犬はこの機会を狙ってましたとばかりに、夜の闇にダッシュ。しばらく待っていたが、帰ってこない。ドアを開けたまま寝ようかと思ったけれど、翌朝僕がまだ目を覚ます前に、また外に出ていって近所で悪さをしても困るので帰ってくるまで待つことにした。今までなら大抵30分か1時間で帰ってきたので、すぐに戻ってくるだろうと甘く考えていたのだ。が、待てど暮せど帰ってこない。結局、駄犬が戻ってきたのは、夜も白々と明け始めた5時半過ぎだった。大馬鹿犬が。心底、そう思ったのでありました。

馬鹿犬を待つ間、ネットで遊んでいた。検索のキーワードに「一体いつになったら帰ってくるの」とか「いつまで待てばいいのだろう」、「犬が帰ってこない」などと入れてみる。検索結果は、どうしてこういうページが出てくるかなぁというものを掘り出してきて、おかげで知らない世界をしばし覗き見させていただいた。

夕マズメをやりにトンガリロ川に行く。水温14度。14番程度のDeleatidiumと思しきカゲロウが羽化していた。Coloburiscusもいるだろうと12番のフライでやるが出が悪い。やっと一尾。ならばカディスはどうだと、おとといのと同じパターンを投げるがまったく反応なし。それで、もう暗くなって見えなくなってきていたのだが、14番の黒のパラシュートにしたら、2尾釣れた。釣れた三尾とも30センチちょイの小鱒。最後に釣った鱒の胃の中を見たら、16番のカディスが一つ入っていた。うーむ。奥が深い。

 

11月24日

トンガの記事は、「カヌーライフ」冬号と「アウトドア」3月号に載るようだ。って、まだ何にも書いていないんだけれど。「フライフィッシャー」は、どうなるか、まだ未定。この週明けにでも編集部に連絡をとって、聞いてみよう。

突然舞い込んできたバンジージャンプの免責の翻訳をする。なるほど、例え何が起ころうと、どんなことになろうと一切の責任は負わないようです。その辺をちゃんと覚悟したうえで飛びますと一筆書かせられるわけだ。遺言執行者、遺産相続人、管財人、いかなる人も訴えることはできないし、しかもそれに関する弁護士費用だってわしら知らんもんね、だそうです。色々大変ですな、崖から飛び降りともなれば。

夕方、トンガリロ上流部に夕マズメの様子を見に行く。水温13度。昨日行った、国道の下よりも一度水温が低い。ポイントが大分変わっている。大水のせいだろう。暗くなるまで待つが、小さな手の平サイズのニジがライズしただけ。それも一尾。仕方なく、それを釣る。
40クラスでいいから、それがわさわさ集まっていて、ぽこぽこライズしている場所をなんとか見つけたいものだ。いや、見つけないと。
改めて、釣りガイドの情報量の多さを感じる。毎日毎日、朝から晩まで川に出ているのだから、どこに魚がいてどこでライズするか、その辺、よく知っているよな。もっとも、ごく狭い地域限定の情報という制限はあるけれど。

 

11月26日

土曜日の夜に来客。オークランドから黒木さん、ウェリントンから高島さんとその友達。2時頃まで、ワインを飲んで話す。日曜日は、トンガリロ川でカヤック。下り始めてまもなく、一緒に行ったグループの一人が肩を怪我する。下るのは無理なので、歩いて上に戻るという。それで、僕、高島さん、その友達の三人が出口までひたすら漕ぎ抜け、車を上に回すことになった。いいウェーブもホールもみな無視して、ただただ漕ぎ続ける。前回トンガリロを下ったときも、真冬で寒かったので遊ぶどころではなく、漕ぎ抜けるばかりだったが、なぜか今回も同様のことをする羽目に。二時間で出口に着き、上に回ってみたら、誰もいない。どうやら、上流から降りてきたラフトに乗せてもらったみたい。怪我はどうなったんだろう。

まだ、ニュージーランドに来たばかりの頃、十年以上も前だけれど、納豆を作ろうと試みたことがあった。大豆を煮て、それに日本から送ってもらった納豆の藁ずとを入れ、人肌に温めておいたのだ。数日後に様子を見ると、納豆の香りが仄かにする、腐った大豆がタッパー一杯にできていた。それ以来納豆養殖には手を出さず、オークランドに行ったおりに冷凍物を買ってきていたのだが、先週、ふと思うところがあって、再度挑戦。解凍した納豆を種に、やればいいんじゃん。というわけで大豆を煮て、冷めたところで納豆数粒を入れ、よくかき混ぜた。それがもう四日前の話。で、今日、どうなっているだろうと見てみる。手に取った途端、あの懐かしい香りではなく、なんとつーんと異臭が突き刺さる。あれ、納豆菌って、アンモニアなんか出しながら増殖するのかな。などとそれでも甘い期待を捨てきれない。もともと納豆の嫌いな妻が捨てろとうるさく言うので、台所からベランダの隅に場所を変えた。
やっぱり駄目かもしれない。

 

11月27日

私の負けです。素直に認めます。惨敗です。はい、あれは納豆でもなんでもありません。単なる腐った大豆です。前回は、よく嗅げばどこかにうっすらと納豆の香りがしないでもなかったが、今回はそれが微塵もない。どこからどこまでも異臭だけ。徹頭徹尾、腐敗臭。いくらゲテ好きの私でも、あれを口にする勇気はまだない。「いや、この鼻につーんと来るところが、うっぷ、またなんともおつでげすな」と酢豆腐をやるつもりも当然ない。それで仕方なく、悔しさを胸に抱きつつコンポストに捨ててしまった。
納豆菌には冷凍の低温を生き延びる力がない。そういうことである。それがわかっただけでも収穫である。いや、そうでも思わないと、やっていられない。
パンを作る酵母、イースト菌みたいに乾燥した納豆菌なんてのはないんだろうか。絶対にあると思う。納豆を作っている工場に行ったら、それこそ25キロ詰めの袋かなんかで山積みにしてあるはずだ。今度日本に帰ったら、それをちょっと分けてもらうことにしよう。

ササノコを取りにまた近所の笹藪に出かけた。妻と二人で、かなりの分量を収穫。茹でて皮を向くと五分の一くらいに減るが、それでも一度には食べきれないほどであった。木の芽和えとじか煮の二品を作る。ウン、やっぱりいいですね。納豆の仇をササノコで討つ。そういう感じの夕食でした。ちなみに他のおかずは、イカの塩辛、春菊の胡麻和え、カブと鶏とワカメの煮物と、相変わらずニュージーランド離れしたメニュー。

 

11月29日

「カヌーライフ」の原稿を書き終わる。中に載せる情報の正誤確認をニュージーランド航空にメールで月曜日に送ったのに、まだ返事が来ない。大きい会社はこれだからひどいなぁ、ほんとに。と思っていたら、今日、ニュージーランド航空のサーバーから宛先人不明で戻ってきた。どういうことよ、とよく見れば、私がメールアドレスを間違えて打ち込んでいただけでした。すんません、ひどいのは私です。

つり人社に電話をしてお伺いをたてたところ、「フライフィッシャー」誌にもトンガの記事を載せていただけるそうで、ほっと一安心。文字数とページ数、それに締め切り日を教えていただく。でも、締め切りが12月の10日って、結構詰まってません?

年末進行なので、「言い訳」の締め切りがいつもより早い。おまけに11日から15日まで友達が遊びに来るからその前にやってしまわければならない。あれ? っていうことは、これも12月の10日までということかな。あはは、アイデアもまだ何も浮かんでいないのに。

そんな中、この金曜日には来客の予定が二件。一人は、トンガで同じ宿に泊まり、一緒に国立公園を歩いたアメリカ人。モンタナはかのボーズマンから来ているのだが、釣りはしないそうだ。一緒にトンガリロ国立公園辺りをトランピングをする予定。もう一人は、僕がまだガイドをやっていた頃にご案内したことのある日航の機長さん。こちらは釣りをしに来る。二人とも家に二、三泊するのではないかと思う。となると、なおのこと仕事をてきぱきと片づけてしまわないと、遊ぶ時間がなくなる。

今日の格言。「口は災いのもと」。

 

11月30日

午前中は、フライの写真を撮る。湖のほとりで撮ろうと、タウランガ・タウポの河口に行ったら、キャンパーバンが3台停まっていてオジサン達が気持ち良くルアーを投げている。ああ、これこれ、ここはフライ・フィッシングオンリーですよと言ったら、かなり拙い英語で、いや、ここはオーケー、湖、オーケーと言い張る。でも、河口から200メートル以内は駄目なんですよと教えてあげても、オーケー、オーケー、湖、オーケー。そしてそう言いながら、立派な鱒を見せてくれた。もう腹も出してさばいてある。ああ、あ。それにしても使っている竿がすごかった。ものすごくごつい竿で、ヒラマサかサケでも釣れそうなものだ。オジサン、捕まんないようにね。そう言い残して、去る。

午後はフライフィッシャーの原稿にとりかかる。なんだか、色々とあって、難しい。

夕飯の後で、トンガリロ川に釣りに行く。水温14度。ライズが始まったのは8時半過ぎで、45分から9時10分頃までがゴールデンタイムだった。前回の教訓を生かして、16番のカディスと小さいフライで狙ってみる。水面を走るようにするとよく出るのだが、ゴンと来るばかりでなかなか鉤に乗らない。4〜5回あわせきれなかった後でようやく一尾釣る。34〜35センチというところ。胃の中身を見せていただくと、14〜16番ほどの大きさのカディスが1匹入っていた。見ていると対岸の方がライズも多いし、フライを振りやすそうだ。今度は反対側に回ってみよう。