トラウトバム日本語版        

DIARY

3月3日

先週の水曜日に、オークランドでアジ釣りを堪能。根岸さんが連れていってくださったのだけれど、ほとんどワンキャストワンフィッシュ状態、ときにはダブルでタイ、アジが釣れてくる。タイは日本で春コダイとして売っている煮付けに良いサイズなのだが、残念ながらこちらの規定サイズ以下なのですべてリリース。本当に岸から数十メートル沖に出ただけ、それも住宅が建ち並ぶ湾内だというのに、この釣れ具合だからなんとも羨ましい。帰りには、さらに欲を出し、シーマートでサンマ、メバルなどを買い込む。メバルは16尾も入ってたったの2ドルだった。涙が出てくるぜ。その夜は、メバルの煮付け、アジの刺し身、たたき、それに味噌を加え粘り気が出るまで叩いたナメロをいただく。日本の友達が送ってくれた吟醸酒も開けて、ほとんど天国状態。ああ、やっぱり海のそばに住みてぇよなぁ。

翻訳の仕事をもっと増やそうと、翻訳検定の試験を受けた。資格を取れば、少しでも営業がやりやすいかと思ったのだ。試験前に、過去の問題を模擬試験のつもりでやっていて、解答例を見て愕然とした。あまりにもひどい誤訳があるのだ。

No Cable? No D.S.L.? Try Satelite
模範訳例
ケーブルなし?D.S.L.なし?衛星を使った試み

そりゃぁ、ないだろぉ、いくら何でも。「ケーブルがない?D.S.L.がない?それなら衛星がありまっせ。試してみてよ」 そういうことだろぉ。ぼう然としながら、先を読んでいくと、さらにひどい誤訳が、、、。

In one StarBand radio spot, a cheerful saleswoman from a cable modem provider tells a prospective customer: "Let's see, I can schedule an installation when hell freezes over or when pigs fly. Which would be better for you?"
模範訳例
StarBand社のラジオコマーシャルで、ケーブルモデムのプロバイダ企業から転職してきた陽気なセールス担当が契約見込み客に対して次のように応えている。「ちょっと待ってください。地獄の火が凍るか、豚が飛んだときに設置できると思います。どちらにしましょうか?」

はぁ?転職ぅ? 一体どこにそんなことが書いてあるんだ? だいたいそれじゃ、意味をなさんだろうが。ケーブルモデムの設置がいかに時間がかかるか、それに対して衛星だとすぐに設置できますよ、それが言いたいためのジョークでしょう?それなのに、この模範訳例じゃ、衛星の設置にものすごく時間がかかることになってしまう。このfromは、ただ単にケーブルモデムのプロバイダ企業からやって来たセールス担当ということでしょうが。
これが、人から金を取って、売りつける問題集に訳例として載っているなんて、「社団法人日本翻訳連盟」って、いったいどんなもんなんだ?
ひょっとして、俺って、騙された?

3月10日

木曜、金曜とホークスベイの山に入った。これが北島の山かと目を疑いたくなるような、素晴らしい眺めだった。まず牧場から歩き始め、深く厚い森をゆるゆると上っていく。ひたすら続く登りにヘトヘトになりながら高度を稼いでいくとひょいと森林限界を抜け、尾根に出る。そこが今回の終点のサンライズハット。犬連れだったのでハットには泊まれなかったが、ガスコンロ、ストーブなども揃ったなかなか小奇麗な小屋だった。ここからは東側の平野が一望に見渡せ、後ろの斜面を10メートルも登って尾根に上がれば、切り立った山並みがどこまでも続いている。まるで、アルプスのようだ。夜半から急に吹き荒れた強風にテントが飛ぶんじゃないかと思いつつ夜を過ごし、翌朝は珍しく早起きをして、ご来光を拝む。
金曜は、山を下り、そのままアッパーハットに行って高島邸にお世話になる。例によって例のごとく、ワインをいただく。
土曜日はリムタカレンジへ皆でデイウォーク。ここは予想以上に面白いところだった。とろとろと登りとも言えない道を1時間半も歩いていると、いつの間にか峠を越え、オンゴロンゴ川に出るという意表をついた趣向。森が美しく、また道もよく整備されているので、小さな子供を連れてハットに泊まる家族が何組もいた。
駄犬は、河原ではしゃぎすぎ、僕が投げる木の棒を追いかけて全力疾走に次ぐ全力疾走を重ねたため、足の裏をすり減らしその夜からびっこを引く。遊ぶことに関して加減を知らないらしい。まるで、漕ぎ過ぎて肩を傷めたパドラーか、竿を振りすぎて手首を痛めた釣り人のようだ。

3月15日

たまに、ニュージーランドに住んでいてよかったなぁと真剣に思うことがある。
例、その1
つい先日、ジョージナ・バイヤー女史のテレビ・ドキュメンタリーをやっていた。彼女はマオリ族で、もともとは男性だった。20代で性転換をしたのである。性転換の前後には、キャバレーやバーなどで働き、売春もやっていたらしい。そんな彼女が紆余曲折のあと、ある決意をして田舎町に移る。そこでは学校に通い演劇を勉強し、卒業後はその才能を買われ、演劇の教師として採用されることとなった。面倒見のよさから友達に強く推され、市議会議員に立候補。自分では当選するとは思ってもいなかったのに、当選してしまう。議員となってからは、活発に動き回り、その働きを認められて、次の市長選ではついには市長にまでなってしまう。彼女が市長をしていたのは、ウェリントンから北に上がったカータートンという小さな町で、レッドネック、つまり保守がちがちの地域でもあった。市長就任中の彼女の、人の話をちゃんと聞く態度、仕事をこなす有能さなどは、地元の人たちばかりでなく、中央政党の耳にも届くようになり、労働党から国会議員として立候補を勧められる。そして、見事、当選。
番組を見終わったあとに、僕は本当にいい国に住んでいるなぁと思った。立候補した人間が、何を考え、どのようにものを見て、どれだけそれを実行する力があるか。議員を選ぶときに必要なのはこういったことで、性転換した人であろうと、売春をしたことがあろうが、関係ないのだ。
「お父さんの地盤を継いで」なんて、訳のわからない理由で立候補する馬鹿がいて、そしてそんな馬鹿が当選してしまう国とは大違いである。

例、その2
ニュージーランドの水棲昆虫の本を読んでいて、最終章にその保護にまつわる部分が出てきた。1991年に「資源保護法」が設置され、水棲昆虫はそのintrinsic value、つまり、なんのために利用できるとか、何に対して価値があるとかではなく、それそのものとしての固有の価値のために保護されなければならないとしている。もちろん、水棲昆虫ばかりではなく、川の水も、魚も、森もこれに含まれる。しかし、頑なに守るばかりでは経済に支障を来す。だから、開発と称して略奪、破壊しまうのではなく、なんとかうまく継続可能な状態で利用していこう。その基本ルールを敷いたのが「資源保護法」である。非常に陳腐で古くさい言葉だけれど、人間と自然の「発展と調和」を目指しているように見える。
それにひきかえ、日本はどうか?いまでも作られ続ける数々のダムを思うと、暗澹たる気持ちになる。そんなにダムは必要なのか?公共事業という名目で、土建屋に金をばらまくためにやっているのではないか?そして、そこに住む虫、魚、鳥を守るための法律というのは、なにかあるのだろうか?環境庁が反対をし、ストップをかけた開発はなにかあるのだろうか?

ここまで考えて、やはり、「お父さんの地盤を継いで」なんてのがまかり通っている国なのだから、仕方がないのかもしれないと思った。

2世、3世議員の立候補に関して、親、あるいは祖父と同じ地域からの立候補ができないようにする法律を作ればよいだけなのだが、はたして、そんな法律を2世、3世議員が作ろうと思うかどうか。大橋巨泉が作ろうとしたみたいだけれど、とん挫してしまったし。
もっとも、これは日本は民主主義の国だと思うからの幻滅なのであって、日本にはもともと民主主義などありはしないのだと言ってしまえばそれまでの話である。

3月18日

ニュージーランド人の映画監督ピーター・ジャクソンが全編ニュージーランドで撮ったというので、この国ではかなりもてはやされ、期待されている映画「指輪物語」を見てきた。
うーん、ですかね、正直な感想としては。三部作の第一部目ということなので仕方がないのかもしれないけれど、なんか、こう、盛り上がりに欠けるんだよな。手に汗握るどきどきハラハラもないし、涙がこみ上げる感動もないし、おおと驚くようなどんでん返しもないし。助走、踏み切り、空中フォーム、どれもきれいにまとまっているのだが、飛距離に欠けるというところか。ちと、残念である。

ボブ・ポポビックス「Pop Fleyes」を読んでいる。エポキシでフライを作る第一人者、ポポビックスがポップ・フライズの基本的な概念をきれいな写真入りで詳しく説明してるもの。エド・ジャロウスキーとの共著。Fleyesの名前が示しているように、大きな目玉が特徴だ。エポキシだけではなく、シリコンも使いこなしている。見ているうちに自分でも巻きたくなり、いろいろ素材を集めることに。ああ、海釣りに行きてぇ。

日本のアマゾンから本を購入。専門辞書など4点。特に急いでもいなかったので、時間はかかるけれど安いという発送方法を選んだ。注文したのが3月2日で、5日には発送したというメールが届いたが、どうせしばらくかかるだろうから家に来るのは3月末くらいかなと思っていたら、なんと8日には配達された。送料はたったの2400円。うーん、これだけ安くてこれだけ早いなら、これからもっと使ってあげよう。ちなみに日本国内だと送料はただらしい。なんともすごいことだ。

その時に買った一冊に利根川進「私の脳科学講義」岩波新書がある。脳のことを知りたくて買ったのだが、期待外れでその部分があまり深く突っ込んで書かれていなかった。それよりも、この人の生き方に触れた部分が面白かった。凡人の私でも触発される部分がおおいにある。何が自分のやりたいことで、何を面白いと思ってやれるのか。そこを見極め、あとは突っ走ればいい。
わかりました、利根川先生。
うっしゃぁ、もっともっと山や川や海で遊ぶぞぉ!

ひょっとして、誤読してる?

3月21日

出稼ぎに行く女房をタウポ空港まで送るため朝5時半に起きる。行ってらっしゃいませと手を振って、8時ちょっと前に戻ってきたが、起きている気力もなくそのままベッドへ。目を覚ましたら11時。おお、なんとも優雅な生活。まさに髪結いの亭主。
3時ころまで翻訳の勉強をして、それからジョギングカヤック。だいぶ水に慣れてきたようで、ひっくり返っても慌てなくなった。そのせいか、波の上でも落ち着いてターンができるようになり、とても嬉しい。1時間ほどで戻ってきて、ちょっと勉強。5時半ころに今度は竿をもってトンガリロ川に行く。上の吊り橋から下った崖下ポイントで夕まずめを狙うものの、ライズはほとんどなかった。季節のせいなのか、場所のせいなのか。
昨日トンガリロ川沿いを散歩していたら、遡上したばかりの鱒をぶら下げた釣り人に会ったし、今朝のワイタハヌイ川でも地元のおっさんがたくさん出ていた。中には竿が曲がっている人もいたので、気の早い群れが川にさしているのだろう。

ボブ・ポポビックスを読み終わったので、さっそくサーフ・キャンディもどきのスメルトフライを巻いてみた。タウポ湖で使うのもよいけれど、どこか、海でも試してみたい。さて、どこに行こうか。

3月24日

金曜日に来客二人。ハミルトンから伊藤さん、アッパーハットから高島さんがそれぞれ遊びにきてくれる。伊藤さんはもちろん釣りで、前日の夜に良い鱒をあげたとのこと。すっかり日が落ちてから、トンガリロ川でちょっと大きめの黒いストリーマーを引くのだ。ブラウンがそろそろ上流に移動し始めているので、でかいブラウンが狙いだったのだが、釣れたのはニジマスだったそうだ。
三人で、ワインをやんわりとたしなみながら、アジの干物、大根と豚の煮物などをいただく。ちょっとお疲れ気味だった伊藤さんが休んだあとも、高島さんとしつこく飲み続けて、結局二人でワインを3本空けてしまう。翌朝は、二日酔いで起きられず、やっとベッドから抜け出したころには、もうとっくに伊藤さんはお出かけ。気持ち悪い、頭が痛いなどと泣き言を言いながら、高島さんと二人でカイツナまで漕ぎに行く。すっごく久しぶりのカイツナのホールでぐるぐるにされ、なんとも悔しいことに泳いでしまった。ああ、ため息が出る。もっともっとロールの練習をせねば。
その夜はおとなしく飲んで、二人でワインを二本に収めておく。日曜日は、土曜日の反省をかねて、二人でトンガリロのミニウェーブでロールの練習をする。まだまだ変なところに力が入っているらしく、上がり方がきれいじゃない。
高島さんが昼過ぎに帰った後は、畑の土いじり、カヤックのバウを車でひき潰し、湖、海兼用のつもりでボブ・ポポビックスのサーフキャンディをいくつか巻く。

本当に幸せな週末。お二人ともありがとうございます。

3月26日

冬に備えて、薪を購入。家の壁に積み上げるための横枠を作らなければならず、いろいろと寸法を測っているところへ、友達の大工がたまたま遊びに来て、あっという間に作ってくれた。さすがは本職である。その後、昼を挟んでえっちらおっちら薪を積み上げていたら、再び同じ友達が現れ、すごい勢いで積んでくれたものだから、こちらもあっという間に終わってしまう。丁重にビールを進呈して労をねぎらう。ありがとうございました。

その友人にPopovicsの本を見せたら、ポポビッチと発音していた。なるほど、そう言われてみればきっとイタリア系の名前だから、ポポビッチの方が正解なのだろう。
で、そのポポビッチのエポキシフライに入れ込んでいる。巻いていて面白いのだ、じつにこれが。サーフキャンディの基本形からいろいろやっていて、ふとパールのマイラーチューブを中空のままいったんエポキシで固めてしまえば、空気を中に閉じこめられることに気づいた。その上からいろいろとマテリアルを巻き、普通のサーフキャンディ風にエポキシで形を整えると、ルアーのプラグとストリーマーの中間のような面白いものができ上がった。おなかの部分は逆光気味にすると、半分透けて、とても悩ましい姿だ。ブービーのように発泡スチロールの大きな目玉を付けるのではなく、何とかスメルトフライに浮力をつけられないものかと思っていたので、それがあっさりと解決してじつに嬉しい。もっともまだこれで釣りをしていないから、あくまでも机上での話。この週末にはボートを出して、湖で試してみよう。
ああ、早く、釣りに行きてぇ。

3月28日

がーん、ショックだぁ。やっとある程度エポキシフライがきれいに巻けるようになったので、完成品の一つを流しに張った水にほうり投げてみたのだ。そしたら何ということか、浮くどころか頭から真っ逆さまに沈むではないか。いくらおなかに浮袋を内蔵したところで、エポキシが重すぎるらしい。せめてゆっくりと沈んでくれればまだ救いようがあるのに、なんのためらいもなくすごい勢いでヘッドダイブをしてくれる。あまりの小気味よさに感心してしまうくらいだ。
そんなわけで、川の流れ込みの暗い湖底でぽっかり浮いている勇姿を勝手に想像してほくそ笑んでいたのだが、ぬか喜びに終わってしまった。こんなに沈みがよいのでは、シューティングヘッドでのズルズルなめくじ引きには使えないだろう。すぐに根がかりをしてしまうはずだ。
ただ、表層に出てきている鱒にはフローティングラインとの組み合わせで使えそうだし、もともとの目的である海でも大丈夫だから、無駄にはならないと自分に言い聞かせている最中。