トラウトバム日本語版        

DIARY

12月2日

ネイピアに久しぶりにキャンプに行く。狙いは、ワイナリではなく、イカとアジ。陸からエギを投げてイカを釣るエギングはもとより、そもそもイカ釣りそのものを生まれてこの方やったことがない。だから、時間もポイントも釣り方もなにもわからないまま、ただやみくもに投げては引くばかり。当然のことながらかすりもせず。述べ竿で小魚を狙おうとするが、これもカス。ネイピアの町外れをあちこち走り回って改めて気づいたのは、この街は海に面してはいるものの、述べ竿はおろか、投げ竿ですら釣りをできるポイントは非常に少ないということだ。せいぜい漁港脇の防波堤と港の隅の二箇所だけ。あとは小砂利の浜にでっかい波が突然持ち上がっては、どどんどおんと大音響とともに崩れ落ちている。漁港も流れ込む川の中に作られているので、良くて汽水域。淡水の嫌いなイカが釣れるようなところではない。
冷静になって考えてみれば、いくらトンガリロ川が鱒釣りで有名だからといって、鱒釣りをやったこともない人間がふらりと来て釣れるほど甘くはない。釣り方、場所、その他もろもろの知識と経験がなければどうにもならない。
イカ釣り、アジ釣りも同様なのであって、もっと通い込んで知識、経験を積まなければならないなと思った。いずれにしてもネイピアは外れだと思うので、今度はタウランガ近辺に出かけることにしよう。
ボートを持っていけば確率はぐんと高くなるのは百も承知しているのだけれど、あの重たいやつをえんやこら車で引っ張っていくのは、ちと気が重くなる。やっぱり、陸からがんばってみよう。

ところで、今回釣りをしていた場所のすぐ後ろにはボートランプがあり、ジェットスキーのお兄ちゃん達がそこから海に出ていた。しばらくして女房の驚いた声に振り返ってみれば、なんとトレイラーにジェットスキーを載せた乗用車が、どうしたものかざんぶりと海に入っているではないか。波に押されてドンブラコと揺れている日産プリメーラを、兄ちゃんが必死になって抑えている。連れのお兄ちゃんが慌てて自分の四駆に飛び乗って、どうにか引き上げていたけれど、その頃には哀れプリメーラはエンジンも事切れ、屍となっていたのであった。
どこまで海水に浸かったか分からないけれど、あの車はお釈迦だろうな。
なんだか、もったいないことを目の当たりにする今日この頃。

12月4日

夕マズメのトンガリロ川に出かける。釣り場着午後8時40分。つり橋から二つ下のプールがよいという話だったので橋から見てみると、いくつか丸い波紋が広がっている。おお、これは幸先いいぜ。やや大股気味になりつつ河原におりると、さっきは気づかなかったけれど、もう既に一人釣り人が入っている。それで、その一つ上、つまりつり橋の真下のプールで釣ることにした。
ボチャリ、バチャリと派手なライズがいくつも目の前で沸き上がる。流れに立ち込むと、沢山のカディスが川面を走っているだけでなく、顔と言わず手と言わずぶつかり、さらには首筋や頭の上を這い回り、とうとうシャツの中にまで入ってくる始末。とんでもない量のカディスである。さっそくフライをカディスに変えて水面を走らせると、ドボリとフライが消え、魚がかかる。うわっはっはっは。今日はこれで決まりだぜ。そう思ったのだが、なぜかその一尾だけで、あとが続かない。ライズが消えたのではない。水しぶきをあげるような派手なライズが、ここでもそこでも、淵の尻でも対岸でも、淀みでも流芯でもひっきりなしに起こっている。なのに、釣れない。ひたすらキャストを繰り返し、フライを水面に走らせても、鱒は一向に反応してくれない。
なぜだ。なぜだぁ!
もうすっかり暗くなろうかという頃、ようやくもう一尾をかけることができた。9時20分。暗くなってフライも見えなくなり、ライズも減ってきたので退散。
悔しいったらありゃしない。明日は、ソフトハックルのウェットで勝負してやる。

12月10日

急ぎの仕事が入った。他の人が英文和訳した医学論文のチェックである。分量はA4にして34枚とかなり大きい。おまけに非常にせっぱ詰まった仕事だというので、他の仕事のスケジュールをずらしてまで、それに備えた。お金もさることながら、他の翻訳者がされたお仕事を見せていただくのだから、ある意味、自分で翻訳する以上に勉強になることもあるわけで、得るものも多いはず。
メールで送ったという電話をいただいたので、さっそく受信しようとすると、なんと3.2メガバイトと表示される。受信するだけでもたっぷり時間がかかってしまい、じわじわと伸びる受信インジケータを見ながら、いやが応にも緊張が高まっていく。ようやくデスクトップに現れたファイルをクリックし、まずは、原文に目を通す。"The changing impression of ○×△"というタイトルからすると、○×△という病気に対する医学界、あるいは世間一般の見方が変わりつつあることを述べたもののようだ。早速、和文を見てみる。「○×△の印象的変化」
へ?
ええ?なんだ、そりゃ。嘘だろう?
キツネにつままれたような気持ちで和文を読み進めていくと、いきなり2行目で、さらにとんでもない文字が飛び込んできた。
「この疾患は関節の腫張や関節の痛みを引き起こす。然り、この疾患はある種の奇形を引き起こしたり機能に支障をもたらす。」
然り?しかり?はぁ?これを訳したのは、江戸時代の蘭学者か?とにかく原文を確かめてみよう。
"It made the joints swell; it made them hurt. Yes, it causes some deformity........."
ううむ。Yesを、然りと来るか。
依頼してきた翻訳会社に早速電話を入れる。
「これ、機械翻訳ですか?」
「いえ、ちゃんとプロの方が翻訳されたもので、、、」
しばし、絶句する私。
「日本語になってませんよ。誤訳も甚だしいし。これを2日間で直せなんて無理です。できません」
「その、間違っているところだけでも見ていただくとか、、、」
「そういうレベルじゃないです」
たった3行しか読んでいないが、それでもこれだけの数の誤訳、へんてこな日本語が出てくるのだ。ほとんど毎行と言っていいほどだから、全体ではどれほどあることか。意味の通るものにしようとしたら、結局は全部自分で翻訳し直すしかないだろう。とても2日間でできる分量ではないので、日数をもっと貰えるなら考えてみないでもないと告げると、「社内で検討してみます」と言って電話を切られた。
金曜日の朝まで、できればそれより早くと言う依頼だったので、この翻訳を頼んだお客さんへの納品は来週月曜日とか、そんなことなのではないかと思うのだが、、、。

然り、世の中にはいろいろなプロの翻訳家がいるものだと、あらためて感心させられた今日の出来事。

12月17日

週末は、ウエリントンから高島さん、オークランドから黒木さんが来て、いつものごとくワインを飲み倒す。日曜日は、高島さん、ようこちゃんと三人で、トンガリロ川でカヤック。前回より温かいとは言うものの、まだまだ水は冷たい。しかしそれにもめげず、高島さんとようこちゃんは、ちゃんとロールの練習をしている。僕は冷たさに負けた上に二日酔いに引き倒されていたので、それを横目でみていたら、本番でひっくり返ったときにパニックってしまい、もうちょっとで泳ぐところだった。やっぱり、練習って大切なのね。

木曜日の夜に激しい雨が降り、川が濁った。それが、ほとんどおさまったように見えたので、今日は久しぶりに夕マズメに行った。ところが、いつものポイントには先客がいて、プールの中を上がったり下がったりしながら釣っている。どうやら旅行者らしい。地元の釣り人なら、こんな不作法なことはしない。いずれにしてもライズがなかったので、河原で待っていると、暗くなるころようやく対岸でバシャバシャと水しぶきが上がる。以前ならそれが次第にこちらに広がってきたのに、なぜかほとんど対岸から離れようとしない。カディスのハッチもほとんどなく、小さなカゲロウがちらほらいるばかり。それでもなんとか、釣り人のすぐ脇でライズした魚をカディスで釣った。しばらく見ていても、ライズはこちらに来ないし、釣り人も場所を動こうとしないので、今日のところはお開きにすることにし、橋を渡って帰りがてら、ふと思い立って、対岸のライズのあったあたりを崖の上から覗いてみてびっくり仰天。なんと15、6尾の鱒がずらりと並んで、次から次へとライズしているではないか。魚が水面ぎりぎりにいるのと、こちらがほぼ真上から見ているものだから、薄暗い中でも魚の姿が見える。なんとか崖を下りられないだろうかと、辺りを見回してみたが、もう既に暗くなってきて足下もおぼつかない。仕方なく、ふむ、と頷いて、引き上げた。
この次は、明るいうちに入って、下り口を探すとしよう。

12月19日

昨日、犬の散歩をしにトンガリロ川に行き、ふと流れを覗いたら、いきなり下から魚が現れてライズ。おおっ、と思わず声が出てしまったほど、びっくりさせられた。場所は、国道の橋下のプールで、護岸の大石を積み上げられた何の変哲もないところだ。それで、今日は早速、夕マズメにそこに出かけてみたら、なんと10人近い釣り人がいる。もっとも、全員、僕が入った側とは反対岸で、よく見れば、ガイドとおぼしき人に連れられた日本人らしき釣り人もいる。腰近くまで流れにたち込み、一生懸命キャストしているが、あんまり釣れていなさそうだ。僕はとりあえずフライだけ結んで石に腰掛けてライズを待っていると、9時50分頃にようやくぽちゃりぱちゃりと始まったのだけれど、どうも今一つ精彩に欠ける。数が少ないうえに場所が一定しないのだ。それでもなんとか一尾かけるが、すぐにばれてしまった。
なんだ、ここは町に近いから人が多いだけで、ライズは少ないのかとがっかりしていたら、ちょっと上流の岸際でばちゃばちゃやっているのに気づいた。すぐさま小走りで場所を移動し、一尾釣る。それをリリースして、よくよくみると、今釣ったポイントの5メートルほど上流で、まるで競い合い争いあうかのように、沢山の頭が水面から出てはライズしているではないか。
うひゃひゃひゃ。こりゃ、すごい。
しゃかりきになってフライを投げるが、なぜか釣れない。ふと、ライズフォームがなんとなく、水しぶきをあまり上げていないような気がしたので、カディスからコロビュリスカスに替えたら、すぐに釣れた。ちょっと痩せていたけれど、55センチほどのまぁまぁのニジマス。
まだまだライズは続いていたけれど、もうフライも見えなくなってしまったので、9時20分に川を後にする。ウェーダーも履かず、スニーカーのままといういい加減ないでたちだったけれど、とてもいい夕マズメの一時を堪能させていただいた。
対岸ではほとんど釣れていないようだったので、同じプールのどちら岸に入るかというだけで、天と地も違うものなのだなぁと改めて思った。

Witi Ihimaera「The Whale Rider」を読む。トロントの映画祭で「People's Choice Award」を取った同タイトルの映画の原作だ。なかなか良かったので、映画が来たら見に行くつもり。

12月20日

11月はほとんどテレビの仕事で時間をとられてしまい、他の仕事はまったく手を付けていない。さぼっている仕事は、規模=大だけれど難易度=中なので、まぁ、ぼちぼちやればいいやと思っていたのだ。ところが、突然、規模=大おまけに難易度=高の仕事が舞い込んできてしまった。さらにはひょんなことから規模=小されど難易度=超高もやらなければならないことになり、こんなことやってる場合じゃねぇじゃん、と思いつつ、夕マズメの釣りに出かける。
今日は、国道の橋の上流側で様子を見る。ちゃら瀬がすぐ上にあり、深さも充分なのできっと面白い釣りになるはずと、河原で腰掛けて待っていたのだけれど、一向にライズは始まらない。横目でちらちら見ていると、橋のすぐ下流では、水しぶきが上がっており、街側の岸から釣っていた日本人と思しき釣り人が一尾かけた。すぐさま場所移動をして橋の下流に移ったけれど、残念ながら僕のいる側からはライズが遠すぎる。それで、すごすごとまた上流に戻る。ライズは3回あっただけで、そのうち一つを釣らせてもらったのだけれど、実は、対岸のよれのところで、黒い頭がいくつも水面から突き出ては、何か食べているのであった。流芯と巻き戻しの間の、本当に小さなポイントなのに、きっとごっちゃりと魚が入っているに違いない。
今度は、対岸に行ってみようっと。

12月28日

先月今月と割とまじめに働いたので、自分へのご褒美として、クリスマスプレゼントにDVDプレーヤーを買った。どうせDVDが見れるならついでだとばかり、5.1チャンネル用のスピーカー(センター1、リア2)も買ったので、いきなりホームシアターができ上がってしまった。足りないのは、見るDVDだけだ。
ぼちぼち面白い映画を買っていくことにしよう。

根岸さんたちが遊びに来てくれた。朝は早くから夜は遅くまで、ひたすら釣り続けておられるようだ。そのせいか、随分と楽しい釣りを堪能しているみたい。羨ましい。
お土産に、撮影で飲みそこねたStonyridgeを持ってきてくださった。飲み終わっての感想は、根岸さんも言っていたけれど、Esk Valleyの方が美味しいような気がした。そのお返しというか、伊勢さんから貰った、元禄時代の製法を再現して作った日本酒というのを一緒に飲んだ。色は薄茶色で、日本酒ではない。香りも味も、日本酒とは思えない。どこかで飲んだ味だと思っていたら、根岸さんのラオチュウに似ているとの指摘に、まさにその通りと頷く。話のタネとして飲むのにはいいものの、美味しい美味しいと飲む酒ではないと思った。その後、泡盛に突入し、楽しい夕べを過ごす。

先日夜中に激しい雨が降り、川は真っ茶色に。今日当たりから夕マズメは回復するだろうけれど、いよいよ年末のホリデーに突入し人も多そうなので、ちょっと二の足を踏んでいる。